2013/05/26

・仕事のほうは2日+アルファの時間まるで成果が出ないという苦しい局面があった。周囲の同僚たちは次々に成果をあげ、仕事を進めている。こういった辛さはほとんどのアルバイトやいくつかの種類の仕事では体験しない類のものだ。質の仕事と量の仕事がある。

・なんとか自宅に帰り、休息しているとねずみがあらわれた。年に数度現れる。敵だ。よく知っている人の家もねずみの被害にあっている。いわゆる害虫の類は1匹だと平気だけど繁殖して数が増えると手がつけられない。情けは無用。それに自宅は自分が生命活動において勝ち取ったものであり、守るべきなわばりであり、彼らはそれを侵すものたちだ。全力で排除すべきものだと思っている。

・そして今回はねずみが自室に入ってきた。これはまたとない倒すチャンスだった。キッチン周りは構造が複雑で、おそらく彼らにとっての出入り口があり、僕の身体能力では確実に逃げられるのだ。まずは自室に閉じ込めるところからだ。長い戦いが始まったばかりだった。

・ねずみを作業部屋に追い込んだが、ねずみはたくみにパソコンの後ろに隠れたり、本棚の後ろに隠れたりする。誤ってパソコンを壊しでもしたら、最悪の事態となる。気をつけながらパソコンの後ろをみると、はたしてねずみはいなかった。隣接するたんすは壁にぴったりくっつけてふさいだつもりだった。彼らには自分が見えない穴やワープゾーンが見えているとでもいうのだろうか。家具や隙間を念入りにチェックするもそんな隙間はないように思えるのだが。しばらくじっとしていると、部屋の隅のほうからこそこそと現れてくる。来たなと思って見ると逃げられる。見る動作だけでも逃げられてしまう。すごい警戒心である。長期戦を覚悟した。サッカーのチャンピオンズリーグ決勝を見ながら、ねずみとの静かな攻防を繰り返す。

・らちがあかないと思っていたところ、さらに良い作戦を思いつく。さらに見通しの良い隣の部屋に追い込むことだ。家具もほとんどないので逃げ道がないはずだ。隣の部屋のドアをあけ、確実にねずみが隣の部屋にいくまで気づかないふりをすることにした。それも何度か失敗した。今の隠れ場所よりも隣の部屋に近いところまでねずみが移動した段階でプレッシャーをかければ隣の部屋に行くと思ったのだが、それでも彼らは今の隠れ拠点に戻ろうとする。未知の場所を警戒するようだ。ならば徹底的に待つことにし、なんとか隣の部屋に追い込むことに成功した。ふすまを閉じて隣の部屋で活動する音を扉越しに確認した。そして元の部屋にもどられないように気をつけながら、隣の部屋に移動した。

・追い詰めたと思い、次のフェーズに移ることにした。すなわち武器の調達だ。新聞紙を丸めたものはGには十分だがねずみには不十分だと思われた。木のぼうは重たくて命中率が低くとてもじゃないがねずみにはあたらないだろう。ペットボトルを棍棒にしようかと思ったが、最近のペットボトルはエコなのか思いのほかふにゃふにゃで攻撃力が期待できない。もちろん素手は論外だ。あれやこれやと探すと、庭にトイレットペーパーの芯の長くなったような紙製の棒があり最終的にこれを選んだ。まずはこれで一回打撃をあててみてどうなるかみてみよう。武器を装備して隣の部屋に移動した。

・予想通り隣の部屋はものが少なくて、自分に有利な空間となっていた。姿は即座に確認できなかったが、カーテンを叩くとねずみが出てきた。これならいけると思った。逃げるねずみを観察しながら行動パターンを収集した。部屋の隅というよりは、隠れられるところ、小さな隙間を探して逃げているようだった。それでも想像以上にねずみはすばやく20回ぐらい試みた打撃はすべてからぶりとなってしまった。蚊を手で叩いてやっつけたり、新聞紙を丸めてごきぶりを倒したりするスキルは意外とあるのだが、ねずみの回避能力は彼らよりも格段に高い。それに対ねずみは経験値も少ない。

・少しずついらいらしてくると共に、普段は穏やかな人という認識をされることが多い自分に闘争心みたいなものが沸いたのを覚えた。本能とか暴力とかが内蔵されているのを確認した。ヤンキーがけんかや威嚇でさけぶ声よりももっと解読の難しい、鳴き声みたいな声をあげながら、ねずみをおいかけまわして、打撃を繰り返した。人間同士のコミュニケーションではやってはいけない有様だった。しかしすべてはずれた。冷静さを欠いて命中率が下がってしまっている。とうとう紙の棒が折れてしまった。だがそれでも攻撃をやめなかった。とうとう壁際に追い詰めてねずみは逃げ場を失った。ねずみの体力がつきてきたのだろうか?

・では確実にしとめよう。そう思って狙いをつけた。しかしそれが良くなかった。追い詰められた、ねずみはかべとふすまの1センチにもみたない隙間に頭をつっこんで、体をねじこんで元の部屋に逃げてしまった。1秒にも満たない時間だったろうが、あろうことか突然の行動に僕はねずみを見てしまっていた。逃げられた怒りが頂点に達すると共に、必死なねずみにどこか心打たれたところもあったのだろう。

・元の部屋にもどると窓の溝のところにねずみはいた。やはり体力は落ちているように思えた。再び隣の部屋に誘導してふすまをしめた。うまくいったつもりだった。だが、それからねずみの足音が、元の部屋からも隣の部屋からも聞えなくなった。隙間を発見して別の部屋や外に脱出したのかもしれない。あるいは体力の限界に達して動けなくなったか死んだのかもしれない。隣の部屋を探してみたが反応はなかった。ただ、僕の心を占めたのは敗北感にもにたようなものだった。トムの気持ちがよく分かった。ねずみは手ごわい。てごわいし、にくたらしいからこそ、我を忘れて追い掛け回すその姿も不恰好だし、あまり人に見せたくない。

・そんな出来事があり、土日はほとんど何もしなかった。およそ人間らしくない週末だった。せめて日記を書いたというのが顛末だ。

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Shirado Masafumi